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「そんなことはありません!」
「そう?」
青年は薄い笑顔を張り付かせ、オルシアのほうを見た。どうしてかオルシアには青年が傷ついているように見えたが、そんなことには構っていられなかった。
「どうして、僕には魔術の才能があるのですか?」
「さあ。知らないな。誰も知らないんじゃないのか、そんなこと。おれもどうしておれが気脈に愛されているのかしらない」
「愛されているのですか」
「そうだよ。気脈にな。おれでいえば、この兎と雨雲に」
青年の傍にはいつのまにかまた、巨大な兎がたたずんでいる。ぎょろり、と目玉がぐりぐりに動くのが、恐ろしかった。小さければ可愛い兎なのだろうが、こうも大きいとさすがに怖いと思う。
「僕も愛されているんですか?」
「そうだ、いま見せたろう。この鏡たち」
「鏡?」
「見ろ」
もう一度ぐいと、大木と化した鏡のまえに立たせられる。じっと覗き込めば、やはり、巨大な兎と雨雲、そして無数の鏡の破片が見えた。
「……この鏡が、僕のキミャク?」
「そうだ。無機物が転がるのは、すこし珍しいな」
「それって悪いこと?」
「いや、そんなことはない。別に良いことでもないけど」
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