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青年はそう言って、またパチンと指を鳴らした。大木はするすると糸が解けるように簡単に崩れ、後には小さな手鏡だけが残った。
「ヴェンニ、手鏡」
青年がそう呟くと、兎が鏡を咥え、そのまま飲み込む。
「そんなことも出来るんですか?」
「こんなことしか出来ない」
魔法。生まれて初めて、それを見たような気持ちになった。
この小さな村にも、魔術士はいた。偉そうで(事実、偉いのだろうが)、金をたくさん持っていた。彼らは手を触れずに湯を沸かしたり種から花を咲かせたりしたが、オルシアにキミャクを見せてはくれなかった。――知らなかった。
あの、と、気付くとオルシアは口にしていた。
「……弟子にしてもらえませんか」
魔術士になりたいと思ったことなどなかった。医者にすら、なりたいわけではなかった。今まで将来の夢なんてものを持ったことは一度もない。しかし、手を鳴らすだけでさまざまなことを実現してみせる、そしてあの従順な兎を見て、魔術士の素質があるといわれて、どうして夢を持たずにいられるだろう。
――魔術士になりたい!
それから、何秒ぐらい経ったのか、分からなかった。
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