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翌日、オルシアはもう一度黒石の坂に来た。彼ともう一度話し合うために。
しかし、あまりに浮ついた様子でいたのが、よくなかった。やけに陽気で落ち着かないオルシアを不審に思った学舎の子どもたちに後をつけられていたのに、全く気が付かなかった。坂に着いて、青年の姿を認め、その傍に駆け寄る。そして邪険な声をかけられて初めて、オルシアは振り向いた。
「友達を連れてきたのか」
「え?」
年の近い子どもたちが数人、伺うようにこちらを見ていた。が、すぐにわっと飛び出してきて、青年を取り囲んでしまう。当然知らない仲ではないが、友達と呼べるほどの間柄ではない。
「ちがう、友達じゃない」
「そうなんだろうな」
青年が嫌味ったらしく大きく頷いたので、オルシアはなんとなくその続きが言えなかった。
ただ、ふんと鼻を鳴らす横顔に幼さを感じて、彼は実際そんなに大人というわけでもないのかもしれない、とオルシアは思った。
「ねえ、あなただれ? 不思議な格好!」
「わあ、大きな革靴をつけてる!」
小さな町だ。住人でないものがいたら、すぐに分かる。
たしかに青年は、少し特徴的な服をしていた。顔立ちだけ見ればなんとなく薬師のようにも見えるのだけれど、それにしては荷物が少ない。そもそも、旅人にしては身軽すぎるのだ。もちろん、彼は魔術士だから、おおきな荷物などいらない。
「ねえ、なにをしてる人なの?」
「魔術士」
「それって、何をするひと?」
「魔法を使って人々の暮らしを豊かにする」
「むずかしい!」
「できるだけ簡単に言ったつもりなんだけどなあ。つまり、魔法使いのようなものだ」
「ねえ、魔法使いと魔術士はどう違うの?」
「さあ。言い方の問題かな。言葉を使う人が違うんだろうね、おれ達は自分達のことを、かならず『魔術士』というから」
「どうしていまは魔法使いって言ったの?」
「きみたちに分かりやすくするために」
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