001 出会い

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 青年は、努めて丁寧に答えていた。何やら自分のときとやけに対応が違うな、とオルシアは思ったが、自分だけぞんざいな扱いをされるのにはある程度慣れていたので、特に何も言わなかった。  ――それよりも。  ほかの子ども達が、彼だけに集中して、その傍らにたたずむ兎には、一切興味を示さないのが不思議だった。今日は雨は殆ど降っていないが、兎――ヴェンニは確かな巨大さで、青年の横に立っている。無視できないはずなのに、皆ないものとして扱っている。いや、実際彼らには見えていないのだ――と、オルシアは今更ながらに深く納得した。 「ヴェンニ」  兎の名前を呼ぶと、ぎゅるりとした目玉がこちらを向いた。しばらく、オルシアはその瞳と向き合った。明らかに、ここにいる。手を伸ばす。兎は体温も持っていた。この世のものとは思えぬほどに大きい。 「ヴェンニ」  名を呼べば、反応する。他の子どもには見えないこの大きな獣が、愛おしかった。 「オルシア、何してる」  青年がふいにオルシアに声をかけた。同時に、ぱちぱち、と弾けるような音が聞こえる。どうやら小さな花火を上げてやったようで、他の子どもたちは皆いっせいにそちらに気を取られていた。 「なにも」 「呪文をあまり軽率に使うな、お前の気脈が暴れる。そうしたいなら、別に構わないけど」 「……この子、ヴェンニって名前なんじゃ?」
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