001 出会い

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「また明日もここにいますか?」 「また明日もくるつもりか?」  青年はやはり顔も合わせずにそう言ったが、先ほどよりは嫌そうじゃないな、とオルシアは判断した。 「出来るだけあなたと話したいんです」 「変わった奴だ」 「あなたは人に好かれるほうなのでは?」  花火がぱちぱちと、後ろで弾ける。どうみても子ども好きとは思えない彼に、子どもたちが懐く。こういった人間がいるものだ。そこに存在するだけで、無愛想でもなんとなく好かれる。 「ただの人には好かれるな。魔術士同士では、そうでもない」 「どうして?」 「気脈が厄介だからだろう。雨に降られたいやつなんていない。まあ、ここにいる間は、石が吸ってくれるからだいぶんマシだな。この石は役に立つ」  青年が再び、足元の黒石を蹴った。パリン、と、薄いガラスを蹴るみたいに、雪だるまを崩すみたいに、簡単に石は割れる。やっぱり、不思議だ。  試しに真似をして黒石を蹴ってみたが、割れる気配は全くなかった。本当にオルシアには気脈があるのだろうか? 「……割れない」 「当たり前だ、切削の魔法は紫の本の魔術にあたる」 「紫?」 「三番目に難しい魔法ってことだよ」 「魔法にレベルがあるのですか?」 「もちろん。青の本から始まり、赤の本、紫の本、白の本、黒の本、桃の本。六冊の本を全て攻略しなければならない」 「あなたは全て終わったの?」 「まだだ。まだ、おれは黒の本。術士登録は通ったんだが、なかなか桃に進めない」  青年は悩ましそうに頭を振った。雨足が少し強まったような気がして、兎を見れば、ピンと立っていたはずの耳がしおれるように垂れていた。  すごく、分かりやすいな、と思う。  青年は雨雲の相手も兎の相手もせずに、石を割りながら呟く。 「オルシア、お前、魔術に興味があるのか。まあ、そうだろうけど」 「はい、もちろん」 「おれは弟子をとらない。術士になりたいなら、町の魔術士に頼め。そいつの名前も実力も、どの本まで進んでいるのかも知らないが、術士を名乗る以上、白以上ではあるだろう。赤ぐらいまでなら教えてくれるはずだし、たいていの術士は弟子入りを拒否しない」 「どうしてあなたは拒否するの?」 「その質問には答えない」  青年は冷たくそう答えたが、傍らの兎がしょんぼりとしたままなので、恐らくなにか複雑な事情があるのだろうとオルシアは察した。 「また明日も来ます」 「ああ」  青年はもはや拒否しなかった。オルシアはどこか高揚のようなものを感じながら、それじゃあね、とヴェンニに声をかけ、丘を去った。
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