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朝目覚めると、父はすでに外出していた。
父の外出や帰宅を、オルシアはいつも、鍵箱に鍵が入っているかどうかで判断していた。
――どうしよう。
ソファにひとり寝転んで、オルシアはため息をついた。父にはまだ、魔法の力のことは言っていない。オルシア自身、半信半疑の部分もあった。
あの青年は確実に魔術士だと思う。育つ鏡、降雨と兎、自由に花火を打ち上げる力。どれひとつとっても、尋常のことではない。あんなことができるのは魔術士だけだろう、と思う。
その彼が、オルシアには魔術の素養があると言った。ほかの子どもに兎が見えなかったこともある。きっとオルシアには魔術士の才能が――ある、のだろう。
疑問なのは、どうして村の魔術士がそれを教えてくれなかったのか、ということだった。それどころか、昨日一晩考えて、オルシアは思い至っていた。オルシアが名前を呼ばれない理由、母を失った要因、それは幼少のころに村の魔術士から「呪われている」と叫ばれたからではなかったか。
呪いと、魔法。
ひょっとすると――とオルシアは思う。
青年は、呪いと気脈を取り違えているのかもしれない。オルシアの気脈は珍しく映る、と彼は言った。
気脈――そうではなくて、あの鏡の破片は、呪いではないだろうか?
黒石のなかに散らばり、金銀にきらきらと光を反射して、知らない星座を形作るオルシア自身の気脈たち。
この推論を、オルシアは青年に展開できずにいた。とはいえ確かめなければならない、もしも自分に魔術士の素養があるのなら、ぜひ術士を目指したいと思う。何故こんなにも、強く切望するのか分からない。分からないがしかし、これを人は『夢』と呼ぶのだ、という気がオルシアにはしていた。
魔法を確かめなければ。
呪いなのか、魔術なのか。
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