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あれから五年が経ち、オルシアは八歳になっていた。
三歳の頃のことを明確に覚えているということ、母親がいなくなったということの意味を理解できるということ、そしてそれを寂しいと思いこそすれ涙を流したりはしないところが、「呪い」なのだろうと、オルシアには分かっていた。
父親はひとかけら残った親心からか、医師としての正義感からか、男性としての責任感からか、ともかくもオルシアを捨てることはなかったし、食事や着るものや部屋といった、暮らしに必要なものを過不足なく与えたが、愛情だけは少しもオルシアにもたらさなかった。
しかし、仕方のないことだ。愛情というのは、与えようと思ってなんとかできるような性質のものではない。食事を与えるのや勉強を教えるのとは違う。仕事のように事務的には行えないもので、だからこそ、それを愛と呼ぶのだ。
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