001 出会い

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「僕も、昨日会ったよ! あの人魔法使いだよ」  オルシアと共に坂で彼に会っていた子どもの一人が、人垣のなかから声をあげた。広場にはいつのまにか、沢山の人が集まっていた。嵐の遠吠えが響く。  父をはじめとする数人の大人たちが、オルシアと青年の前へと一歩、出る。 「突然、紋を揚げるとは」 「入村の手続きはしたのか?」 「待て、無礼にするな。紋を持っている術士だ」 「違うなら申し訳ないが――この嵐とあなたとには、なにか関係があるのか?」  口々に発せられる言葉のひとつひとつに、オルシアは身が竦むような思いがした。つい先ほど、この嵐はオルシアの『ヴェンニ』のせいだと、彼に聞いたばかりだ。 「待て。術士同士で話していただこう。先生はどこだ」  誰かがそう言って、人垣が奇妙な方向に割れた。その先には、村の魔術士がいた。髭を蓄え、長裾の緋服を纏った術士は、眉をひそめて彼を見つめている。いつ見ても気難しそうな人だ。オルシアはひそかに、村の術士の周囲に視線を這わせた。  やはり、隠しているのだろう、気脈はどこにも見えなかった。 「先生」  呼びかけると、術士は忌々しそうにオルシアを睨んだ。この人はいつも、オルシアを殊更に邪険にあつかった。 「――初めまして。名乗りは出来ないが、敵ではない」  青年はそう言って、杖を取り下げた。雨に溶け入るように紋章が消える。  そういえば、彼の名前を知らない、とオルシアは今更ながらに気付いた。 「では、この嵐はなんだ」 「おれではない、分かるだろう?」 「しかし」 「おれではない。おれはお前の敵ではない。その理由がない。――おれはな」  青年はそう言ってから、なにかに引きつけられるかのように、オルシアを見た。  ――呪い。ヴェンニ。鏡の気脈。敵。  どうしてかオルシアには胸騒ぎがした。 「なあ、そうだろう?」  瞬間、青年の背後から羽が生えるみたいに、大振りの、巨大な耳が広がるのが見えた。――ヴェンニ!  次いで、薄い雨雲が、意思を持ったように動く。青年の頭上を取り囲み、おどろおどろしい姿をとった。蛇のように、蛾のように、なにか生きもののような形になって――広場の術士のほうを向いた。 「――!」  オルシアは声を上げそうになったが、なんとかそれを飲み込んだ。誰もがこの異常に気付いていないのが恐ろしかった。気脈は術士同士にしか見えない。はっと気づき、村の魔術士のほう――そちらには、オルシアの父や、あの子どもたちもいる――を、見た。彼らはただ、呆然としていた。 「あの――」  なにをしようとしているんですか、と聞こうとした。  掠れた声が出る。青年の腕にしがみついたが、彼はこちらを見ようともしない。顔の左半分、少し長い前髪で隠れかけた瞳と目が合う。抑えろ、と言われているような気がした。それはオルシア自身の思い込みなのではないかと思うほどに、心のなかから湧き上がるように聞こえてきた。今は、抑えなければならない。どうして、と声を上げたい。巨躯の兎、蠢く暗雲は、八歳のオルシアを震え上がらせるのに十分だった。  村の魔術士は、眉をひそめた。 「なにをしている」
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