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「お前も術士の端くれを名乗っているのであれば、抑圧された気脈がどういった反応を起こすのか、知らないわけじゃないだろう。気脈は――見えているな?」
青年は、なんでもない広場の床に目線を這わせた。オルシアには見えない、父にも見えないだろう、しかしおそらく、そこにはオルシアを愛する気脈が、鏡が、ばらまかれている。
同じように目線を這わせ、村の術士は頷いた。
「そうか、見えているか」
「そんな」
村の術士は――この気脈を知っていたのだ!
ばらかまれた鏡。これは、気脈なのか、呪いなのか。
縋るような思いで、オルシアは青年を再び見上げた。彼の瞳が細められる。聞けなかった。
――僕は呪われているのですか?
放射線状に、青年の頭上の雲が、広がった。それは少しずつ空を侵食し、禍々しい渦を描き始める。兎が足を曲げ、飛躍の姿勢を取る。そのすべてが、村の術士と父のほうを向いている。
青年が微笑む。いまにも襲い掛からんとする、とうてい草食動物には思えない獰猛さを宿す、ヴェンニのその瞳の濁り。
「行け」
「――待って!」
オルシアは咄嗟に、青年の身体を押した。
しかし、術をかける本人のほうを動かしたところで、気脈がどうにかなるわけでもない。
オルシアと彼の間には明確な体格差があった。小さな身体は跳ね返され、オルシアは尻餅をついた。そう強く払われたわけではなかったが、砂埃が舞うせいで、しばらく目を開けられなかった。
ようやくにして、身体を起こす。
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