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「……どうして?」
食料、とくにパンは貴重だ。
「どうしてって」
青年はここで、初めて、予想外だとでも言いたげに眉をひそめた。
「お前、おれの気脈が見えないの」
「キミャク?」
「兎と雨。見えない? ……ああ、そうか。こうしたらどうだ」
はっと、オルシアは息をのんだ。
青年が、「こうしたら」と言った瞬間に、彼の背後から、ぴょこんと、可愛らしい、しかし巨大な二つの耳が、抜き出た。それはヒクヒクと動く。青年の背から、まるで二つの巨大な翼が生えているように見えた。後ろに、何かがいる。
「……ひょっとして、魔法を見るのは初めて?」
彼がそう笑うのと同時に、次は酷い土砂降りが始まった。
「いえ、町の術士が、見せてくれたことが……」
しかし、雨粒は二人の肩を濡らさない。濡れないのに、感触だけは確実にある雨が、一帯に降った。
「そのとき、おれのような――いや、形や色や表現は違っても、なにか、ふしぎな脈を感じなかったか。おれのはちょっと珍しいほうだ」
オルシアは少しだけ考えて、首を振った。巨大な兎。濡れない雨。断じて見たことがない。
「……そうか」
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