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青年は、幹のなかに埋もれている鏡の部分を指差す。枠の部分はこんなにも大きくなったのに、どうしてか鏡部分はひとまわり程度しか大きさが変わっていないように見えた。恐る恐る中を覗くと、そこにはオルシアと青年、巨大な兎と雨、そして足元には無数の鏡の破片が散らばっているのが分かる。
「何を……映しているんですか?」
「周囲のイメージ。お前の周りにあるものは、おれが見ているお前のイメージ。おれの周りにあるものは、お前の見ているおれのイメージだな」
「えっと、ぼくのイメージがあなたに見えていて、あなたのイメージが……」
混乱する。ぐるぐると木の棒で地面に図を描いて、整理しようとした。オルシアはよくそういう風に図解で物事を理解する癖があったのだが、青年はすぐに棒を奪った。
「いいか。まず、魔術士の気脈は、本人には見えない。他人の――つまり、今で言えばお前の視界を通してしか、おれはおれの気脈を見ることができない。――もちろん、気脈を正しく感知できるのは魔術士だけだ。お前のイメージはただしい。いつも、おれはおれの師や兄弟子たちと一緒にここに立つと、このイメージが見える。雨と、あと巨大な兎。別に兎が好きってわけじゃあないんだけどな。雨は様々だ、小雨のときもあれば嵐のような日もある。そもそも気脈にも色々あってな。おれのような複数の要素が絡んでいるのは珍しい。動物がいるのはそんなに珍しいことじゃないが、これほどに大きいのはあまりいないな」
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