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いらないもの
男が仕事を終え帰宅した時、自室の様子は一変していた。
「おい! 俺の部屋にあったあれ、どうした!?」
妻は男の夕飯を温め直しながら、振り向きもせずに返事をした。
「あれって、大量のプラモデルのこと?」
「そうだよ! どこにやった?」
「売ったわ」
「売ったぁ!?」
妻は出来上がった料理をさっと皿に移し、テーブルへと並べる。
「だって、組み立てもしないものを何年も積んだままにしてるんだもの。いらないでしょう?」
「い……、いるに決まってるだろ! あの中にはプレミアがついたものも……!」
「あぁ、それでいい値が付いたものがあったのね。価値が分かっている人の手に渡ってよかったわ」
「おい……!!」
泣きそうな顔になっている男へ、妻は悪戯っぽい笑顔を向けた。
「そんな怒らないでよ、素敵なプレゼントがあるんだから」
「プレ、ゼント……?」
「そう! あなたのプラモデルを売ったお金で、おしゃれなラグが買えたの。明日、届く予定よ。あなたの部屋、きっと居心地のいい素敵な空間になるわ」
「…………」
男は言葉を失い、両手をだらりと下げる。
髪の間から覗く淀んだ瞳が妻の腰を見つめた。
「なぁ……、ダイエット、どうなったんだ?」
「え? 何よ、急に……」
妻が拗ねたように口を尖らせる。
「見れば分かるでしょ、そんなに減ってないわ」
「どの辺の脂肪、いらないんだ?」
「どこって……」
妻の手が、腹周りに浮き輪のようについた脂肪をさっと示した。
「やっぱ、この辺かな」
「…………」
数日後、男は警察に捕まった。
腹周りの肉をごっそりと刃物でそぎ落とされ、絶命した妻。キッチンに放置されていた彼女を発見したのは、ラグの配送で訪れた業者だった。
取り調べの際、男は昏い瞳でこう語った。
「はい、あれは私がやりました。妻が、私に断りもなく大切なプラモデルを売り払ったからです。
ねぇ、お巡りさん、妻は私の大切なものを勝手に売り払いましたが、私は妻自身が不要と言った脂肪を捨てただけです。
なぜ、妻のした事は咎められず、私だけが責められなければならないのでしょう」
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