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 だんだんと小さくなっていく少年の言葉尻には悔しさが滲んでいた。ドレスの裾が地面を引きずって、土で薄汚れている。そのとき、ぽつっと、少年が落とした涙が地面に吸い込まれた。ガタガタと震えている少年はあまりに惨めで、隆彰はちっ、と舌打ちした。 「来いよ」  腕を引いて立たせると、涙で濡れた目はきらきらと輝いていて、驚いたように隆彰を見た。 「とにかくその格好じゃ風邪をひく」  ホテルのほうに連れて行こうとすると、少年は渾身の力を振り絞るようにして激しく抵抗した。 「誰かに見られる・・・・・・っ!」  悲鳴のような声だった。少年は隆彰の腕を振り払うと、逃げるように生け垣の下にしゃがみ込んだ。  自分で着たんじゃないとすれば、誰かの嫌がらせか。  隆彰は舌打ちした。  まったく、くっだらねえ。  ガシガシと頭をかく。  少年をこのまま放っておいても隆彰の胸は痛まないし、ふだんの自分なら迷わず回れ右をしていた。けれど、あまりにみじめな少年の姿が隆彰に気まぐれを起こした。  隆彰はスーツの上着を脱ぐと、少年の頭からすっぽりとかぶせた。顎の部分でスーツの袖をきゅっとしばる。まるで泥棒のほっかむりのようだが、ひとまずこれで少年の顔は見えない。自分よりも身長があるので着替えを貸すのは無理だが、部屋に戻れば多少でかくても父親の服があるだろう。 「来いよ」  驚いたように目をまん丸く見開いた少年の手をとると、隆彰はホテルの入り口へと歩いていった。
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