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結城梓真(ゆうき あずま)は、幼稚舎から一緒の幼なじみだった。梓真は隆彰の剣呑なまなざしに怯むことなく目を合わせると、その目に面白がるような光を浮かべた。
「いやー、さすがもてるやつが言うのは違うなって」
「梓真てめえ・・・・・・」
「だってそういうことでしょ?」
梓真は頬杖をついたまま、にっこりと笑った。色素の薄いカールがかった髪に、梓真の性格を知らない女たちからは、天使のようだと称される笑顔だった。
こいつのどこが天使だ。悪魔の間違いじゃねえか。
しんと凍りついた空気に、慌てたのは、元々の話を言い出した友人だった。
「・・・・・・いや、悪かったよ。隆彰がそんなに嫌なら、俺が彼女に断ればいいだけの話だから」
「ねえ、賭けをしない?」
こいつがこんな顔をしているときは、ろくなことがない。
機嫌がよさそうな顔で、にこにこと自分を見上げる梓真に、隆彰は警戒を滲ませた。
「・・・・・・賭けってなんだよ」
「あそこに立っている白いシャツのメガネ、いるでしょう? 場違いにも園芸の雑誌を抱えて周囲から浮いているやつ」
梓真の指し示したあたり、人混みに紛れて、確かにそこだけぽつんと周囲から浮くように、所在なさげに佇んでいる人物がいた。
「あいつがどうした?」
「もし、隆彰があいつを落とせたら、隆彰の勝ち。落とせなかったら、僕の勝ちでどう?」
「男じゃねえか!」
腹立ち紛れに近くのテーブルを叩いた隆彰に、梓真は平然とした顔で、だったらなにか問題ある? と答えた。
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