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悔し紛れに隆彰が言い渋ると、梓真はにっこりと微笑んだ。
「それは大丈夫。相手は男が好きなゲイだから、隆彰にも充分勝算はあるよ」
「はっ!? なんだよそれ」
「さすがにねえ、男にこれっぽっちも興味がない相手じゃ、いくら隆彰でも分が悪すぎるでしょう」
そんな卑怯な勝負はさすがの僕でも言えやしないよと、梓真は殊勝な面もちを見せる。
「だからね、それ専用の掲示板にメッセージを送ってみたんだ。初めてのことで誰にも相談できずに戸惑っています。お友だちからよろしくお願いします、って。その目印が、あの雑誌」
ーー確信犯じゃねえか。
隆彰は唖然とした。さすがに呆れ果てて言葉が見つからない。友人たちもぽかんとした顔で、梓真を見ている。
「あのメガネの人も、これまでずっと片思いばかりで、つき合ったことがないんだって。だから押し倒されるようなことはないだろうし、・・・・・・まあ、たとえ押し倒されたとしても、ここから見るかぎりでは隆彰のほうがタッパもあるし、だいじょうぶでしょう。誰にでも脚を開くような女でもないしね」
梓真はくすくすと笑った。
「・・・・・・ざけんなよ」
「だからふざけてないってば」
梓真は大まじめな顔で隆彰を見つめ返すと、その視線がふっと窓の外に流れた。
「あっ。いなくなっちゃうけどいいの?」
見ると、待ち合わせの相手が現れないことにしびれを切らしたのか、メガネの男が場所を離れるところだった。男の姿はすぐに人混みに紛れて見えなくなる。
隆彰は、ギリと、唇をかみしめた。
「てめえ、覚えてろよ」
「がんばってねー」
にこにこと悪魔の笑みを浮かべ、ひらひらと手を振る梓真を睨みつけて、隆彰は店を飛び出した。
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