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「ねぇ。鉄平、暇なの?」
寺岡と二人になるのは避けたいから、夕方に鉄平がこの部屋に居てくれるのは正直かなり助かっているけれど、こうも毎日のように来ていて、鉄平は大丈夫なのだろうか。
「暇じゃないです。暇じゃないから、こうして勉強してます」
標本室の棚から、スライドガラスが並んだマッペを取り出す。それには大きく「使用中! 保村研 吉浦」と書いた紙が置いてあった。
「明日は、来なくても大丈夫だよ」
「何でですか?」
「居ないから。火曜日と金曜日は、他所の病院に行くの」
そして、金曜日はそのまま単身赴任先のここではなく、自宅に帰るのだ。寺岡は、奥さんと2歳の息子と一緒に週末を過ごす。2年という条件でこの病院に研究しに来ているから、単身赴任なのだ。
寺岡との距離に比例して、理世が感じる罪悪感は大きくなっていた。
きっと前までは熱に浮かされたように麻痺していたのだろう。浮気された虚しさや、寂しさなら知っていたはずなのに。同じもので、それを埋めようとしていたなんて。
「ふぅん…。そうなんだ。明日も来るけどね。理世さんと会いたいし」
若干つまらなそうに言って、鉄平は手元の顕微鏡をのぞき込む。鉄平の持っているマッペをちらりと見ると、肺腫瘍の標本がずらりと並んでいた。どうやら本当にちゃんと勉強をしに来ているらしい。
検査番号ごとに、組織像のメモを取って、臨床情報とあわせて肺腫瘍の分類を行っているようだった。
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