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「でも、他の技師さんは来ないですよね?」
「まぁ、それはそうだけど」
「じゃ、二人っきりみたいなもんです。医者は鏡検室に引きこもりなんだから」
確かに、標本作成スペースは技師の空間、鏡検室は医師の空間と病理部はかなりはっきりと線引きされている。鉄平のように、ふらふらと標本作成スペースに居る医師はほとんど居ない。もちろん、病理部所属の医師は診断業務を抱えているから当たり前なのだけど。
「居なきゃいけないの、午前中だけなんですよね? 午後、映画でも見に行きませんか?」
標本室での鉄平からの告白に理世は何も答えていなかったけれど、鉄平は気にした様子もなく、普通に……むしろ、前よりも積極的に接してくる。それが、心地よく感じられていた。
「うん、いいよ」
休日の待機中は、標本作成を進めておくことになっている。鉄平も勉強をするつもりらしく、いつも通り、標本室の顕微鏡に向かっていた。
休日は、寺岡は来ない。それだけで、理世としてはとても気が楽になる。そして、鉄平が居るなら大丈夫、という安心感もとても大きかった。
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