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寺岡は、夜に来ると言っていた。まだ夕方だし、明るいから来ていないかもしれない。それなら、今のうちに家に帰って、寺岡が来てもドアを開けなければいい。
これからどうするか、そんなシミュレーションを理世が繰り返している間にも、車はナビをする必要もなく、理世の家に近づいていく。
『お前とこうしてると、安心する』
昼間の寺岡の声が頭をよぎる。寂しそうで、どこか思いつめたような、そんな声だった。
奥さんと、何かあったのかな……。
心配にならないわけじゃない。形はどうであれ、理世が一番つらかった時に支えてくれた人に違いないから。何かあったのなら……聞いてあげたい。
だけど、怖かった。
会ったら、戻れなくなる。きっと取り返しのつかない事になる。
頭の中で、警鐘が鳴っていた。
あの声を聞いて、私はドアを開けずに寺岡先生を追い返せる……?
理世は頭をふった。どうしたらいいのか決めることも出来ないまま、後5分もしたら家についてしまう。赤信号で止まった交差点の右側の角には、ちょうどコンビニがあった。少しでも、帰るのを遅らせたかった。
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