141人が本棚に入れています
本棚に追加
「鉄平、コンビニ入れる?」
「あ、はい。いいで…」
ウインカーをあげて、理世に視線を向けた鉄平は、続く言葉を失った。その代わり、ゆっくりと理世の頬に手を伸ばす。
「なんて顔、してんですか……」
今、自分がどんな表情をしているのか、理世自身も判らなかった。どうしようもなく不安で、今すぐにでも逃げ出したかった。
「帰りたくないって言ったらどうする?」
「喜ぶ」
即答されたその答えに、理世も思わず笑ってしまって、その拍子に涙が頬に落ちた。
「嬉しいけど、だめです。俺、今の理世さんといたら正気保てそうにないから。早く帰って休んでください」
きっぱりと言い切って、前を向いた鉄平に、理世は畳み掛けるように告げた。
「来るんだって」
誰が? と問いかける鉄平の眼差しが、理世に突き刺さる。
「寺岡先生、今夜来るって」
青へと色を変えた信号機。鉄平はコンビニに入らずにそのまま車を転回させた。
最初のコメントを投稿しよう!