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理世の目の前にずらりと並んだ引き出しの列の向こうから顔を出して、ニコニコと手を振っている人物が居た。まるでコンビニ前で待ち合わせでもしていたかのようにお気楽に。
「やっほー。理世さーん」
「……て……鉄平?」
それは、紛れもなく学生時代の部活の一つ下の後輩、吉浦 鉄平。
今の、見られてたのかと思うと、それだけで一気に血の気は引いていく。まさかこんな所を他人に見られるなんて。しかも、それが知っている人だなんて。
「標本探してたらさ、変な音するからさ。しかも、エロ可愛い声付き」
そりゃ、見ちゃうよ。と、鉄平は屈託の無い笑顔を浮かべて言う。
「……何で、居るの?」
「俺、今 保村研にいるんです」
保村研、それは肺癌の研究をしている病理医・保村教授の研究室の通称。理世の働くこの大学病院病理部とは、切っても切れないご縁がある研究室の一つだ。
「ね。理世さん、今夜暇ですか?」
「……」
答えない理世に、鉄平はふんわりと微笑む。
「寺岡先生って……結婚、してた気がするんですけど?」
「……暇です」
理世のどこに断る余地があったと言うのだろう。
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