今 顔を上げたら、きっと。

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「お、理世。行くぞ」 「え? あれ? 小林先生も一緒ですか?」  声をかけてきたのは、病理医の小林。理世の二つ上の小林は、理世の部活の先輩でもあり、昨年からは病理部で働く医師と技師という間柄。部活の先輩だから、もちろん鉄平とも面識がある。 「鉄平から聞いてなかった? 理世も誘ったってメール来たから待ってた」  あぁ、そうなんだ……。鉄平と二人きりじゃないんだ。  寺岡とのことを2人きりで問い詰められるのかと覚悟していた理世は、拍子抜けすると同時に、安心して息をついた。 「裕也さんだけですか?」 「さぁ? 俺は理世が来るってしか聞いてない」  病院の正面玄関の方向へ歩き出した小林の隣に理世は並ぶ。  小林のフルネームは小林裕也。部内に小林が二人いたから、部活では裕也さんと名前で呼んでいたが、病理部では他の人と同じように、小林先生と呼ぶのが理世の習慣だった。だから、こうして病理部を離れて話すときは、小林先生と裕也さんが混同する。  小林は、当たり前の様に理世と呼び続けているけれど。 「何気に理世と飲むの初めてだな」  部活や病理部の飲み会以外で。と言外に。 「そういえば、そうですね」  仲が悪かった訳では無いけれど、プライベートな付き合いはずっと無かった。それは、鉄平もほとんど変わらない。  正面玄関から出ると、丁度鉄平が研究棟の方から歩いてくるのが見えた。そのまま合流して、繁華街までの道のりを他愛のない話をしながら歩いて、適当な店に入る。
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