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普段は、一緒に外に出かけて人がいないところでさえ、手もつなげないほどの照れ屋で、並んで歩くのもどこかよそよそしい賢人だが、雨降りの日だけは、手を引き俺の傘に入ってきて、満足そうに微笑んでいた。
そんな賢人が俺はいとおしと思っていた。
俺のアパートには、賢人のものがいくつかおいてある。
一緒に暮らしているわけじゃないけど、少しずつ物が増えている感じから、徐々にここに居座ろうという、魂胆が見える。
だけど、それでもいいと思ってた。
俺もあいつも、互いが必要だから…。
そばにいてくれるだけでいい。
ほかに何も望まない。
この時はそう思っていた―――――
***
仕事も終わり、ビルを出るころには、曇天だった空から雨に変わっていた。
雨空を見上げ手にしていた傘を広げ、持ってきた傘の大きさに驚いた。
間違えて、賢人と使う傘を持ってきてしまった。
一人で使うには、大きすぎるこの傘は、何度も奥へとしまおうと思っていたのに……。
いつも玄関の傘立てに戻してしまう。
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