大きな傘

4/5
前へ
/15ページ
次へ
普段は、一緒に外に出かけて人がいないところでさえ、手もつなげないほどの照れ屋で、並んで歩くのもどこかよそよそしい賢人だが、雨降りの日だけは、手を引き俺の傘に入ってきて、満足そうに微笑んでいた。 そんな賢人が俺はいとおしと思っていた。 俺のアパートには、賢人のものがいくつかおいてある。 一緒に暮らしているわけじゃないけど、少しずつ物が増えている感じから、徐々にここに居座ろうという、魂胆が見える。 だけど、それでもいいと思ってた。 俺もあいつも、互いが必要だから…。 そばにいてくれるだけでいい。 ほかに何も望まない。 この時はそう思っていた――――― *** 仕事も終わり、ビルを出るころには、曇天だった空から雨に変わっていた。 雨空を見上げ手にしていた傘を広げ、持ってきた傘の大きさに驚いた。 間違えて、賢人と使う傘を持ってきてしまった。 一人で使うには、大きすぎるこの傘は、何度も奥へとしまおうと思っていたのに……。 いつも玄関の傘立てに戻してしまう。
/15ページ

最初のコメントを投稿しよう!

192人が本棚に入れています
本棚に追加