大きな傘

5/5
前へ
/15ページ
次へ
*** 『ごめんね……匠……。』 はたと目が覚め、あの日の言葉がリフレインする。 ひどい寝汗をかいた。 冷蔵庫からペットボトルを取り出し、一気飲みした後、ゆっくりと窓の外を見れば、相変わらず雨が降り続いていた。 あの日、賢人に言われた言葉は、土砂降りの雨音で聞こえなかった。 ただ、口の動きが『ごめんね……匠……。』と言っているように聞こえただけ。 交差点の向こう側で、賢人は手を振っていた――――― 賢人がいなくなった部屋は少し広く感じる。 賢人と出会う前だって、一人で使っていた部屋なのに……。 あの傘だって同じだ。 一人で使うには大きすぎる傘……。 こんな別れなんて来るとは思っていなかった。 あの頃が嘘のように、賢人がいなくなった日常が当たり前になっていくけど、大きめの傘と二人の思い出はどこにも消えない。 二人の思い出と一緒に、この傘はしまっておこう。 -END-
/15ページ

最初のコメントを投稿しよう!

192人が本棚に入れています
本棚に追加