192人が本棚に入れています
本棚に追加
***
『ごめんね……匠……。』
はたと目が覚め、あの日の言葉がリフレインする。
ひどい寝汗をかいた。
冷蔵庫からペットボトルを取り出し、一気飲みした後、ゆっくりと窓の外を見れば、相変わらず雨が降り続いていた。
あの日、賢人に言われた言葉は、土砂降りの雨音で聞こえなかった。
ただ、口の動きが『ごめんね……匠……。』と言っているように聞こえただけ。
交差点の向こう側で、賢人は手を振っていた―――――
賢人がいなくなった部屋は少し広く感じる。
賢人と出会う前だって、一人で使っていた部屋なのに……。
あの傘だって同じだ。
一人で使うには大きすぎる傘……。
こんな別れなんて来るとは思っていなかった。
あの頃が嘘のように、賢人がいなくなった日常が当たり前になっていくけど、大きめの傘と二人の思い出はどこにも消えない。
二人の思い出と一緒に、この傘はしまっておこう。
-END-
最初のコメントを投稿しよう!