4. 雨に濡れる

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 対するヴェネリオは歯噛みした。 「……突然何を言い出すんだ」 「名はネロ・サクラーティ」  畳みかけるように。 「若気の至りだったな? 一夜の相手に孕ませて、見つけ出して囲っていたようだったが、今は何処にいるんだ?」  ヴェネリオは完全に閉口した。両の拳を血が滲みそうなほどに握りしめている。アルマンが他に聞こえぬよう声を潜めて発することは、全て事実に他ならない。  場所を変えよう、と提案しようとした時だった。 「そいつの居場所を知っている……、と言ったら、どうする?」  殊更に低く吐かれた言葉。  耐えられずにヴェネリオはアルマンの腕を引き、強引に非常階段の方まで連れる。ただならぬ形相を隠す余裕もなく、その姿は目立っていた。  人気のない階段の下、壁際に押しやられたアルマンはにやりと笑う。 「随分と必死だな」 「黙れ……。何が望みだ? 何を企んでいる」 「特に何も。ただ、たいそうな美人と聞いたんでね」  アルマンが衰えないのは頭ばかりでの話ではない、とはもっぱらの噂。嘯きも冗談に聞こえない。ヴェネリオは苛立ちも露わにアルマンの胸倉を掴み上げた。 「馬鹿げた理由ならば首を突っ込まないでもらおうか。うちの問題だ」 「馬鹿げたとは心外だな、こっちも真剣なんだ」 「何……?」 「黒猫との噂は本当だったぞ? 手懐けるのに苦労したが、首輪を嵌めてやったら随分と大人しくなってな。なるほど囲い甲斐があるじゃないか。男を知り尽くしたように鳴く……、ふふ、どうしたんだ、顔を赤くさせて? 息子の何を想像した……?」  言葉選びは嬲るように、的確に相手の不快感を煽る。これ以上無いほどに顔を歪めたヴェネリオはますます強くアルマンを壁に押し付けるが、そんな威嚇は微塵にも効果がない。いやらしく口角を上げて見せる彼に、自らの劣勢を示すだけの虚しい行為だ。  アルマンはその手を掴み返した。 「ネロは今、私の手の内にある。さあ、交渉と行こうじゃないか……」
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