4. 雨に濡れる

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 今日はルカが来なかった。ネロはベッドサイドに置かれた大量のパンや缶詰、飲料の類をぼんやりと見つめる。今まで毎日欠かさず三食持って来てくれた存在が、急に「出掛ける。好きな時に食べろ」と言ってあれこれと置いていったことは、思いの外ネロの心を空虚にさせた。ずっとベッドに転がっているだけだから腹はそんなに空かない。甘いものも苦いものも気分ではなくて、思い出したように水を喉に流し込む。鎖が鳴る音にも慣れてしまって、逃げようとも思えずに布団に潜り込んだ。  一日経っても帰ってこなかったルカを恨めしく思う。シャワーが浴びたい、と。また全身をくまなく苛められるのを分かっていながら、そんな願望が頭をよぎるほどには、ネロの頭はここ数週間の生活を受け入れていた。  眠って、起きて。窓の外に太陽の光が見えるのは、ルカがいないからだろうか。パリの雨男は今、どこで雨を降らせているのだろう。 (あいつのことばっかり……馬鹿みたいだ……)  自分の頭を疑ったすぐ後には、でも仕方がないじゃないかと弁明する。今この部屋を訪れるのはあの男だけ。縛り付けられたネロの世界には、ルカだけがいる。  今まで、誰もいなかった世界に――。  嫌なことを思い出しそうになって、ネロは無理矢理目を閉じた。頭まで布団を被る。心地よい薄暗がりの中、今が昼か夜かなんてどうでもよくて。 (眠ってしまえ……)  鎖を鳴らして頭を抱え、無意識の内に身体を動かせる範囲で折り曲げた。
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