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そうして、いくらか眠れただろう。
次に目を開けた時、視界はやけに明るかった。瞬きを繰り返して周囲を確認しようとした途端、ネロは何かに覆い被さられて両手を捕らえられた。
ベッドに縫い付けられるように、自由をさらに奪われる。見上げた先には、待ち望んだ――そうは認めたくないが――その人、ルカ。
考える前に、ルカ、と唇で呼んでいた。それに、彼は驚いたような顔をする。
名前を呼んだだけなのに、変な人。寝起きの頭で考えるネロの鼻先に、ルカはぐっと顔を寄せた。近過ぎてよく見えない、しかし、窺うような瞳で。
「……キスしてもいいか」
そんなことを訊いてきた。
ネロは平坦な声で、いいよ、と言う。許可を得たルカはゆっくりと唇を重ねた。お互いに、目は開けたまま。離れて、もう一度。今度は貪るようなものだった。
「ん……」
感じ入った声を上げた、その次には、ネロの脚は思い切りルカを蹴った。もちろん鎖が伸びる範囲でだから、大した威力ではなかったが。
大きく鳴った金属音。ルカは身を起こしながら自分を蹴った脚を捕らえ、そこにもキスを落とす。
「いいと言ったじゃないか」
「気分が変わった」
「難儀な奴だな」
「……飽きたなら解放してよ」
「誰が飽きたって?」
「俺を置いてどこ行ってたんだよ」
ルカはぱちりと瞬きをした。
「気になるのか? 寂しかった?」
「そんなわけない! ただ俺にこんなことしといて、放って置いたのが気に食わない。暇だしシャワー浴びれないし、最悪……!」
口調は攻撃的だったが、その中身は全てルカを喜ばせるものだ。自覚があるかはどうあれ、帰りを望んでいた、と言っているのだ。
頬を緩ませるルカを見て、ネロはますます唇を歪める。
「何その顔、ムカつく」
「いや随分可愛いことを言ってくれると思ってな。シャワーが浴びたかったのか? 悪かったな、今から浴びる?」
「浴びない! 離れろ変態!」
腕と脚を動かせるだけ動かして、ネロは抵抗する。ルカにとっては何の意味もない可愛らしいだけの行為だが、ここ数日の無気力さから元気を取り戻した様子に免じて、素直に退いてやった。
ネロは布団を抱き寄せて、丸くなる。アッシュゴールドの瞳でルカを睨み上げる姿は、本当に猫だ。
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