5. 黒猫の足跡

3/5
前へ
/50ページ
次へ
 フランコと仲良くなってから、俺のヴェネリオに対する癇癪も少しは落ち着いた。そうすると、望むものは何でも用意してもらえるようになった。テレビが欲しいと言えばすぐに部屋に設置されたし、本が欲しい、音楽が聞きたいと言った時も同様に。庭になら出てもいいとも言われた。俺はフランコが持ってくる服を着て、夜の庭をフランコと一緒に歩いた。夜風が気持ちよくて、その時の月だけは母さんと見たものと同じに見えた。そこでフランコから聞かされた、――母さんの死。  母さんはずっと病気だったらしい。自分がもう長くないことを悟って、その前にと俺をヴェネリオに引き取らせた。だけどヴェネリオにとって、俺は私生児、世間には知られたくない存在。だから他人の眼に触れないように、屋敷の中に閉じ込めた。フランコは眉を下げながら「ヴェネリオもあれはあれで、お前のことを考えてるようではあるんだが、いかんせん頭の固い男でな」と申し訳なさそうに言った。母さんの葬儀には、ヴェネリオが名を隠して金を出したらしい。  それでも、俺は最後まで母さんと一緒にいたかった。俺と母さんを引き剥がしたヴェネリオを恨んだし、母さんと一緒にいられなかった自分を責めた。そうして何になるわけでもないのに。  庭の端に蹲った俺に、フランコはずっと寄り添ってくれていた。
/50ページ

最初のコメントを投稿しよう!

384人が本棚に入れています
本棚に追加