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そのフランコも、八年前、俺が十五になる時に死んだ。俺は葬儀にも出られなくて、使用人たちの噂話で知ったのだ。ヴェネリオは俺に何も教えてくれなかった。その日は散々に泣いた。そして、その日が最後だった。
フランコからいろいろと悪知恵を授けられていた俺は、夜中に抜け道を使って屋敷を抜け出した。もしもの時はこれを使え、ただしタイミングはしっかり図れよと言われて貰った財布には充分過ぎる旅費が詰め込まれていて、俺はそれを使って中央駅まで行った。
地下鉄の使い方なんか知らなかったから、そこらへんの奴を捕まえて聞いた。俺が「自分の顔は武器になる」と気付いたのもその時だった。たまたま捕まえた男は忙しそうに俺を振り払おうとしたのだが、俺の顔を見て態度を変えたのだ。親切に教えてもらったから笑顔でありがとうと言ったら、よければ中央駅まで送ろうか、なんて言われて。なんとなくその目が怖かったから断ったのだが、なるほど上手く使えれば……。頭を回しながら、中央駅へ。馬鹿みたいに豪勢な空間を暫く彷徨って、偶然今から出る電車があったからそれに飛び乗った。
辿り着いた先は、ヴェネツィアだった――。
ネロが目を覚ます様子を、ルカはじっと見つめていた。遺産のことなんて知らない、と喚いた日から数日、ネロはルカに背を向け続けた。
それが、今日は目を覚ましてからぼんやりと、ルカを見上げている。
「……おはよう、黒猫ちゃん」
「…………」
呼び方が気に食わなかったのか、ネロはふいと顔を背けてしまう。
「悪かったよ、ネロ。おはよう。今日もご機嫌は斜めかな?」
「……なんでいるの」
「朝食の時間だ。来なかったら怒るだろう、お前」
ルカは小分けになったシリアルのパックをがさがさと振って見せた。未開封のものだけを与え続ける、というのは今でも変わっていない。小さな牛乳のパックも用意されていて、ネロはゆっくりと体を起こす。
しかし首を振った。
「いらない。お腹空いてない……」
「……牛乳だけでも飲まんか? ジュースでも水でもいいが」
「いらない。……気分じゃない。出てって」
鎖に繋がれた身で何を言っているのだろう、とネロは虚しくなりもしたが、ルカは意外にもあっさりと「分かった」と頷き立ち上がった。
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