傘に隠れて(2)

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「でも、フランコにはこんな風に見えていたのかな。この子、すごく、愛らしい……」  まるで自分ではないかのような口ぶりで、ネロは絵画の中の少年を称賛した。色とりどりの花に包まれて眠る彼の表情は穏やかで、子どもらしく丸く、そして何よりも輝いているように思った。  目を凝らしていたネロには気付いた。絵画の端に鉛筆で何かが走り描きされている。「ミオ・ガッティーナ」、愛しの子猫。ネロを最初に猫に喩えたのは、フランコだった。 「俺を愛してくれてたんだね、フランコ……」  そう言って、ネロは泣いた。はらりと落ちた涙は頬を濡らし、今は亡き人を想う。視界がぼやけ、涙が自分から幸せな少年を奪おうとするので、ネロは乱暴に目元を擦った。 その手は甘くルカに絡めとられて、肌が傷付かないように、指で優しく目元を拭われる。 「私もお前を愛してやれる、ネロ。フランコの愛とは違うが」 「……急に口説かないでよ」 「涙につけこむのは男の常套手段だ。経験があるだろう?」 「ないよ、だって……、泣いたのは、フランコの前でだけだったもの……」  手の平に頬を包み込まれて、ネロは頭を振って逃げようとした。しかし強引な男の手は、温かくもネロを離さない。 「私の前でも泣いていい」 「本気で口説いてるの……?」 「もちろんだ。こんなに美しいお前を前にして、黙ってなどいられるものか」  熱を込めて言うルカに、ネロは少し笑った。頬を捕らえるルカの両手に上から手を添えて、皺のあるそれを、――愛おしげにも思える手付きで撫でた。  眦を下げて。
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