傘に隠れて(2)

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「あんたは悪人だ。俺は騙されない」 「悪い男に惹かれたりしないか?」 「そこまで破滅的じゃないよ。俺はね、優しい方が好き」  涙で濡れた唇の端を、ちょっとだけ吊り上げて見せた。 「今だって泣かされてる。ね、俺の雨を止ませられるの? 〝パリの雨男〟さん……」  細められた瞳は挑戦的だった。  ルカは綺麗に半月を描く柔らかな唇に、熱を込めたキスをした。拒まれはしない。ネロはその瞬間まで目を開けていたが、やがて静かに閉じて、その口付けを受け入れた。  唇を離した時、二人は互いの瞳を覗き合う。 「雨を連れるのは性分だ。だからその度にお前に傘を傾けよう。お前を隠す傘を……。生憎と諦めが悪い男でね。覚悟をしてくれ、私の愛しい黒猫」 「……あんたのじゃないし」  口では可愛げなく拒みながら。  しかしその表情は柔らかく蕩けていた。  絵画の中に刻まれた、幼い少年の寝顔のように。  外はまだ雨模様で、二人は傘を差して船に戻った。  触れ合う指は、傘に隠れて。
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