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「大地!!」
「ごめんごめん。びっくりした?」
後ろにいたのは加藤大地。大地とは腐れ縁らしく、中学一年の頃から三年間同じクラスで、気の置けない仲ではある。
「毎日空手で張り上げているその声で叫ばれたら、うるさいに決まっているでしょ! この阿呆が!」
自転車のスタンドを上げ、駐輪場を出ていく。大地は「待って!」と慌てて自転車に跨がって追いかけてきた。
「何」
「冷たいなー。指揮者、おめでとうって言いに来ただけなのに」
何がおめでとうだ。素早く後ろへ流れていく景色なんか見る余裕もなく、内心は荒れていた。
「なんで私なんか推薦したの?」
ルカはむすっとしながら聞いた。
「いや、だってさ、最後じゃん? なんかこう、パーッと何かしたいじゃん?」
わざとらしくため息をつく。その呆れ顔は、大地をギクリとさせた。
「無責任でしょ。あんた、文化祭出ないんだから。推薦者の責任として、私が失敗したときはみんなの前で土下座してよね」
そう。大地は、今年の文化祭に出られない。彼は幼少の時から近くの道場で空手に勤しみ、全国大会にも出場し、多くの成績を残してきた。そんな空手の大切な大会が、文化祭と被ってしまったのだ。
「なーんだ、俺の中学最後の文化祭をお前に託したってのにー」
「…………選ぶ相手間違ってる」
「え、なんて?」
ボソッと呟いた言葉は、本気で聞こえなかったらしい。ルカはそのまま、無言で自転車の速度を上げた。
*****
「はーい、じゃあパートごと分かれてー!」
草木が叫ぶ。今日から本格的な練習なのだ。この時期は基本的に短縮授業で、放課後にクラスの時間を取れるようにしている。ルカと川口愛奈は、教室の隅で楽譜やキーボードとにらめっこしていた。
「昨日、少し練習してきたんだけどね」
そう言ってはにかむ愛奈。ふわふわとした笑顔の中に、しっかりした頼もしさを感じる。
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