第1章

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ルカも、少しでも練習しようとはしたのである。しかし、できなかったのだ。その理由は………。 「ねえ、八分の六拍子ってどうやって指揮するの?」 音楽と一線を引いてきたルカにとって、四が分母でない曲の指揮の仕方は、記憶を辿ってもわからなかったのだ。 「ああ、それも教えなきゃね」 飛鳥が、愛奈とルカの僅かな間に立っていた。「これはこんな感じでね」と見本を見せる。 二拍子に似ているが、下向きの弧の底辺に向かうときはゆっくりと、そこを超えたら駆け上がる。そして上の頂点に達した時に、速度が緩やかになるという緩急がついている。遊園地にあるアトラクションのバイキングのようだ、とルカは思った。  見よう見まねで手を動かしてみた。愛奈は愛奈で、「ちょっと一回練習してみていい?」と伴奏を弾いた。 それから二人で合わせてみる。ルカの指揮がニ往復したら、愛奈の伴奏が入る。るかの心の奥にチリ、と不安がよぎった。  意外と、合わせることって難しい。  飛鳥はルカの不安に気づいたのか気づいていないのか、「じゃあ、一回みんなで合わせてみようか」と声をかける。草木も、「よーし、合わせるぞー」と呼びかけた。 ルカの指揮が2往復し、伴奏が入る。初めて合わせた歌は、各々が必死で自分の歌う旋律をなぞりながら歌っていた。最後は全てのパートが重なり、伴奏も含め全員がフェルマータで終わる。  歌い終わった時、何とも言えない空気が流れた。昨年の合唱はこんなものではなかった。今までの三年生はもっと上手かった。そんな想いを、誰もが感じた。そこで飛鳥は、 「まー、最初だからね。次からはもう少し大きな声で歌えるといいね」 と言った。自分達が比べていたのは、完成品なのだ。これから作り上げていけばいい。
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