東京の見る夢

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 こうして向かった場所は、事務所などが入る雑居ビルの二階だった。ハァハァと息急ききり、合鍵を使ってドアを開く。  内部に明かりは灯っていない。建ち並ぶパチンコ屋のネオンに照らされて、赤や青、様々な輝きが射し込むだけ。 「この事務所を捨てるだって?」  ぐっと視線を凝らして訊ねる。 「ああ、ショウタの野郎が酒に酔ってエデンの女にこの場所を暴露した」  ネオンの青い輝きに煙草の煙が揺れる。室内には他に二人の姿があった。長髪の端正な顔付きの男と、メガネを掛けた茶髪の女だ。  長髪の方は様々な書類を片っ端から段ボールにぶちこんでいて、女の方はパソコンの画面相手にぶつぶつ何かを囁きながら必死に操作している。一刻の余裕もないそんな状況が窺えた。 「ショウタって誰だっけ」  問い質すジャージ。エデンというのは彼らもよく行くキャバクラの名前だ。値段は少々張るが揃えている女の質はいい。だがその間違いを犯した人物の名前には聞き覚えはなかった。 「一ヶ月前に入った田舎モンだよ。俺は必ずビックになる、って調子こいてた奴」 「ああ、いたな。消防団が嫌で田舎を捨てた、とか言ってた奴」  その長髪の答えにうんうんと頷く。顔と名前は一致しないが、そんな男がいたのを思い出す。ようはただのコマだ。使い捨てカイロと同じようなもの。顔と名前をいちいち覚えていたらきりがない。 「とにかく少し休んで、それから片付けようぜ」  途中で買ってきた缶コーヒーを渡して、暫し小休止をとる。 「だけどホステスに喋ったからって、デコスケが動くとはかぎらないだろ」 「念には念をいれとけって、カズマさんの命令なんだ。あのキャバクラ、でこすけの出入りもあるから。」 「成る程な確かにあの店、エスの噂もある。さすがはカズマさんだよな。やることは大胆だけど、引き際も弁えている。支配者の貫禄だな」 「全ては潮時だったのさ。この場所じゃ沢山の夢を見せてもらったしな」  東京の全ては夢で形作られている。夜空を遮るビル群、活気溢れる喧騒、煌々と灯るイルミネーション、それぞれが夢の欠片。いわば東京の見る夢__
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