キク十三歳夏

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 長い人生には、人間だれもが三度だけモテ期があるという。俺にとってその一回目が小学生六年の夏だった。  運動神経は決して悪くないが、本番にめっぽう弱い俺は、うちのチームじゃライトで打順八番のぎりぎり滑り込みレギュラーだった。公式戦でも良いところ無しの俺に転機が訪れたのは引退ぎりぎりの市総体決勝。  九回表のランナー一二塁。どこかで見たシチュエーション。  まずはバットに敬礼。風の強い日だった。  緊張しながら立つ打席。暑さのせいだけじゃない額の汗。点差は2点。俺の一発が出れば逆転だ。  一球目は外してくると読んだが、ど真ん中のストレート。真後ろでキャッチャーミットに景気の良い不愉快な音が鳴り響く。相手ピッチャーがへらへらと薄笑いを浮かべて見えるのは、俺の被害妄想なのであろう。
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