キク十三歳夏

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 俺は諦め、ちょっと待ってろ……と乱暴に言って自室に戻り、学ランを着る。  つい数ヶ月前まで新品の初々しい匂いがしていた学生服は、度重なる諸々の出来事で、すっかり年代物風味に色あせ変わり果てていた。  着替えを終え玄関でリーガルのローファーを履いた俺は、駐輪場で当たり前のような顔で荷台に乗っているサオリの前、サオリの愛車、ママチャリのサドルに跨がる。 「ちゃんとつかまっとけよ」 「飛ばせ飛ばせ-」  帰り道は、ちとしんどいが、行きはゆるい下り坂主体で風が心地いい。  大きな雨池公園の外周をぐんぐんと加速するママチャリ。  まだ鋭利な角度の熱すぎる夏の太陽が、雨池の鏡みたいな水面に乱暴に反射する眩しい視界。 「夏休み入る前にさ花火しようよ。ちづちゃんたちとさ」 「んあ? 風でよく聞こえない」 「だーかーら、花火!」  耳元で叫ぶサオリの声。若干鼓膜越しに脳を揺さぶられる。
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