9人が本棚に入れています
本棚に追加
俺は諦め、ちょっと待ってろ……と乱暴に言って自室に戻り、学ランを着る。
つい数ヶ月前まで新品の初々しい匂いがしていた学生服は、度重なる諸々の出来事で、すっかり年代物風味に色あせ変わり果てていた。
着替えを終え玄関でリーガルのローファーを履いた俺は、駐輪場で当たり前のような顔で荷台に乗っているサオリの前、サオリの愛車、ママチャリのサドルに跨がる。
「ちゃんとつかまっとけよ」
「飛ばせ飛ばせ-」
帰り道は、ちとしんどいが、行きはゆるい下り坂主体で風が心地いい。
大きな雨池公園の外周をぐんぐんと加速するママチャリ。
まだ鋭利な角度の熱すぎる夏の太陽が、雨池の鏡みたいな水面に乱暴に反射する眩しい視界。
「夏休み入る前にさ花火しようよ。ちづちゃんたちとさ」
「んあ? 風でよく聞こえない」
「だーかーら、花火!」
耳元で叫ぶサオリの声。若干鼓膜越しに脳を揺さぶられる。
最初のコメントを投稿しよう!