キク十三歳夏

11/11
前へ
/71ページ
次へ
 二日後の隅桶川の河川敷。一向にサオリは来ない。  あいつはいつもそうだ。あいつにとって約束を破るのなんて、呼吸をするより簡単なことなんだ。だから友達ができないんだ。 「サオリちゃん遅いね」 「いつものことだって」  手持ち花火を全部やり終えて、最後の線香花火を見つめる村上と言葉を交わすが、残念なことにあまり会話は弾まない。 「キクくんって意外と無口。教室だとトモヤくんたちとあんなにはしゃいでるのに」  俺がこんなに詰まらない人間だということがバレてしまっただろうか? 嫌われてしまっただろうか?  虚栄ばかりのいつもの本田(ほんだ)菊(きく)が身を潜めて、緊張してしまっている。  目のやり場に困って、ただただ村上の手元にある線香花火だけに視点を持っていく。 「キクくんってさ、サオリちゃんのことが好きなの?」 「いいや、全然。あいつが勝手に面倒を運んでくるだけだよ」  直ぐさま否定して、また沈黙。最後の線香花火も燃え尽きて、俺たち二人は、空間を持て余す。  会話が続かない。することもない。兎に角、退屈だから……そんな理由で、俺は村上を抱き寄せてキスをするんだ。  当然のように目を閉じる村上。それがなんだか可笑しかった。  河川敷の暗闇は、誰にも見つからないよう二人を上手い具合に隠してくれる。  きっとこうなってしまうことを、なんとなく予見していたし、実を言えば期待だってしていた。だが臆病な俺は、言い訳ばかりを探してしまっていたのだ。          
/71ページ

最初のコメントを投稿しよう!

9人が本棚に入れています
本棚に追加