キク十四歳秋

5/11
前へ
/71ページ
次へ
「ねぇ、キク。聞いてよ」 「やだね」 「パパが酷いんだよ」 「嫌だって言ってるだろ」  ああもう……鬱陶しい。テレビ画面では野球を、全くわかっちゃいないサオリの操る中日が、憎っくき巨人に早くもランナーを許している。俺が言うのもなんだが、彼女に勝負事のセンスはない。 「ぜったいあんな家出てってやるんだから」  俺が話を聞いていないにも関わらず、一人でぶつぶつと喋り続けるサオリ。そしてふと何か思い出したかのように俺の顔を見る。 「そういえばちづちゃんが、キク全然連絡してくれないって言ってたよ。ちづちゃんはいい子だから大事にしなきゃだめだよ」  お前には関係ないだろ? 口で言ったのか、目で言ったのかは自分でもよくわからない。  サオリには、言わなくても伝わるものがある。きっと村上とも、これくらいわかり合えれば、声や言葉にならない機微な気持ちまで、伝わるのであろう。俺と村上には、埋めることのできない溝がある。そもそも棲み分けが違うのだ。 「ちづちゃん泣かしたら許さないからね。ちづちゃんがいなくなったら、サオリまた一人ぼっちだよ」
/71ページ

最初のコメントを投稿しよう!

9人が本棚に入れています
本棚に追加