キク十四歳秋

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 次の日の放課後、男子便所の窓から、俺は外を見ていた。空は晴れていた。運動部の生徒たちが走り回るグラウンド。砂埃が舞っている。  テニス部の村上は、いつだって一生懸命にボールを追う。俺がトモヤたちとシンナーを吸っている時に。 「おいキク、今日俺んちに来いよ」  瞳孔が開きっぱなしの血走った目でトモヤは言った。俺は適当に相槌を打ちながらも、ずっと村上を見ていた。俺はこんな夢現(ゆめうつ)つな状況下でも、やっぱり村上のことが好きだった。 「先に帰るからな。絶対来いよ」 「ああ」  トモヤが取り巻きを連れて外へでる。一人取り残された俺は村上を見ていた。それでも空がくすんだ青を見せた時、ふらつきながらも立ち上がる。そこら中の景色の色が鮮明で綺麗だった。  皆、トモヤと行ってしまった。皆は俺と一緒にいたいんじゃなくて、トモヤと一緒にいたいんだ。そんな物思いに耽る下校時間。  校門で俺を待っていたのは、仲間でも村上でもなく、卒業生の広田だ。数人の仲間を連れている。 「ようキク。ちょっとツラ貸せよ」  きっとこの後の展開は、シンプル過ぎて想像する気にもなれない。よくある話である。
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