キク十四歳秋

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 鳥が飛んでいた。空から無様な俺を見くだす気分がどんなだか、知りたかった。冷たいアスファルトの上で寝転がる俺。鼻血を流して、唇なんかはズタズタで、あちこち痛い。グラウンドに目を向ければ、コートに立つ村上がぼやけて見えた。  それでも俺は立ち上がり、ズボンの砂を掃い、煙草に火を点けトモヤの家へ向かう。  広田たちが、まだどこかにいるかもしれない。びくびくと怯えながら、わざわざ遠回りな裏道を選んで歩く。俺は自分が臆病者だったことを思い出した。やわで薄っぺらな自尊心の膜に、たった人差し指一つ分の穴でも開けてしまえば、俺なんてこんな物だ。  煙草の煙は、心と空を曇らしていく。鳥はもう飛んでいない。俺はトモヤんちのインターホンを鳴らす。 ぴんぽーん、 ぴんぽーん。   「どうした。その顔」  屋敷と言っても過言ではないトモヤの家に着いた俺。シャワーとバスタオルを借りる。 「広田にやられた」 「広田くんが? まあずっとキクのこと気に入らないって言ってたもんな」  同情の一つもせず、他人事みたくトモヤはいう。シャワーから出た俺は、トモヤんちの離れに通された。トモヤはボンボンで、その家の敷地内に離れが幾つか存在する。  なんとなくコウちゃんと遊んだ、コウちゃんちの離れを思い出す。中にいたのは、トモヤの取り巻きではなく、同じ学年の女が二人。トモヤの彼女と、もう一人は顔しか知らない女だ。 「いやいや、クミの友達がさ、キクを紹介しろって煩いからさ」
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