キク十四歳秋

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 帰り道、網の目の避難経路を辿って、逃げ込んだ木枯らし吹き荒れる冷たい路地裏。裏道で辿る家路。ふと立ち止まり、俺はインターホンを鳴らす。 ぴんぽーん、 ぴんぽーん。  自販機で買った缶のコ-ンポタージュを手土産に、アポ無しで訪れた、数年ぶりのコウちゃんの家。何年も話していないから、携帯電話の番号さえもわからない。 「はい」  スピーカーから女性の声で応答がある。おばさんだ。コウちゃんの母親。 「夜分すいません。本田です。コウイチくん見えますか?」 「あらやだ。キクくん? 本当に久しぶりねぇ。随分派手になったわね。ちょっと待ってて」  しばらく待つと、玄関を開けて、中からコウちゃんが出てきた。 「……何かよう?」  浮かない表情だ。わからないわけでもない。 「久しぶりに会いたかった」  可能な限り昔と同じ表情を作りながら、俺は手にもったコーンポタージュを手渡す。 「ありがとう」  コウちゃんはそう言いつつも、離れの鍵を開けて俺を中に通す。古い木造建築特有の匂いが懐かしい。 「ごめん。学校でずっとキクのこと避けていた」 「いやいいよ。喋りかけ辛いだろ? いや避けていたのは俺も同じだよ。悪かった」     
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