キク十五歳冬

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 コウちゃんちを出た俺たち。押し慣れない車椅子をおしながら雨池公園を目指す。空からは微かに雪が散っていた。 「リハビリ上手くいってるか?」 「うん。もう少しで松葉杖で歩けるよ」  何事もなく雨池公園まで着く。そこで一息。ベンチに座り、煙草に火を点けて、途中買った缶コーヒーの蓋を開ける。 「煙草は体に悪いよ」 「知ってるさ」  太陽は観えない。雨池には雪を散らかすコールタールみたいな分厚い雲が映しだされている。もしもここに飛び込んだのなら、映し出したそれを取り払い、美しいオレンジの斜陽を手に入れられるのであろうか。公園のベンチに座り、そんな空想に耽る。 「キク。話あるんでしょ?」 「あのさ……正直に答えて欲しいのだけれど、それやったの、トモヤたちだろ?」  缶コーヒーを一口。微糖とは名ばかりの甘ったるいコーヒー。熱くも温くもないそれを口に含んでは飲み込み、煙草を一吸い。肺に溜まった煙が、このままこの身体を蝕み、癌となりいつかタンパク質の塊になってしまえばいい。今じゃ、そんなことにさえ憧れる俺は、きっと健全なる若者なのだった。
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