キク十六歳春

3/11
前へ
/71ページ
次へ
 それでも両親が多額の示談金を払ってくれたことと、少年法のお陰でなんとかかんとか、鑑別所で済んだのは僥倖である。もう一生分味わった親の泣く顔なんて、見たくないものだ。 「そろそろ帰るよ。今日は家でゆっくり巨人戦でも観るさね」  あれからトモヤはまるでガラ躱すように、引っ越した。風の噂じゃ両親が離婚し、母親と共に東京へ行ったらしい。あいつなら、きっとどこへ行っても上手くやれる。  溜まり場のロータリー付近から、愛車のジョルノに股がる。十六の誕生日の少し後、檻から出て五十CCの免許を取得し、売るほど時間が余った俺は、アルバイトをして原動機付自転車を新車で買ったのだ。喜びの少ない生活をしていた俺には、このピカピカの小さな小さなバイクが宝物であった。  きちんと半帽タイプのヘルメットを被り、セルモーターでエンジンを掛け、アクセスを開け軽く吹かせてから発進させる。
/71ページ

最初のコメントを投稿しよう!

9人が本棚に入れています
本棚に追加