キク十六歳春

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 網の目のような帰路を辿って到着する自宅、駐輪場でU字ロックを掛け、丁寧にシートを被せる。集合市営住宅の郵便受けを開け、まだ母親が帰ってきていないことを確認し、ため息を一つ。階段を登り玄関の鍵を開ける。  自室で着慣れないブレザーとズボンを乱雑に脱ぎ、テレビを付け、リモコンで中京テレビにチャンネルを変えると、緊迫する絶好の場面だった。  憎っくき巨人の先発の変化球を、ジャストで合わせた呼吸とバットで打ち返す中日の三番。弾丸ライナーはフェンスに直撃し、見事なツーベースヒットとなる。  少し興奮した俺は、ボクサーパンツのまま、冷蔵庫から紙パックの牛乳を取り出し、ガラスのコップに注ぎ、それを飲みながら手に汗握る試合の行方を見守るその時、俺んちのインターホンは二度ベルを鳴らした。  ぴんぽーん。  ぴんぽーん。  こんな時、基本俺は居留守を使う。突然の来客など、百害あって一利ないからである。まあ、電気が点いてるので、バレバレではあるが。
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