キク十六歳春

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「悪いけど、他人の彼氏の心配までする程、お人好しじゃない」 「キクのけちんぼ。ばーかばーか」  そう言っては、俺のベッドにダイブして、勝手に横になる。短いスカートが捲れて、細い足の付け根まで見えてしまい、俺は目を逸らす。 「あー、なんか枕臭いよ。ちゃんとカバー洗ってる?」 「うるせぇよ。勝手にベッドに上がるなって」 「ああ、久しぶりのキクの匂い。くっさいけど、サオリ好きだよ。落ち着くし、おネムになる」  暫くして寝息を立て始めるサオリに、仕方ないから毛布を掛けてやる。とても綺麗な寝顔だ。これが広田の物だなんて、凄く寂しい気持ちになる。時間に鍵を掛けて、このままサオリを閉じ込めてしまいたくなる。  玄関から物音が聴こえる。ああ、母親が帰って来たようだ。サオリが来て夕食を作るのを忘れていた。うちの母親は腹が減ると機嫌が悪い。さてさて、サオリが俺のベッドで寝ているこの状況、どうやって説明したものか。
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