キク十六歳春

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 翌週のことである。その日の三限目、理科1の授業で教師は、生物の基礎について退屈な熱弁を振るう。哺乳類が交尾をして子孫を残すことぐらいは知っているが、高校がこんなにも退屈な場所だなんていうことは知らなかった。  学生の内から窓際族な俺は、ぼけっと窓の外をみやっていた。暫くして不意に聴こえた唸るような低いバイクのマフラー音。サオリを後ろに乗せた広田のドラッグスターが、駐輪場に停車する。サオリは今日も重役出勤で、来年は同じ学年になれそうな気がしてきた。  送ってくれた広田に、愛想を振りまくサオリが面白くなくて、俺は机に突っ伏して見ないようにした。視界に映らないようにした。なぜだか凄く眠たい。  俺たち十代のクソガキ共は皆、弱い者は淘汰される弱肉強食の荒野で生きている。その酷く狭い世界に君臨する、食物連鎖の頂点である広田を、『あっくん』などと呼べてしまうサオリとは、もう関わるべきではないのかもしれない。もう住む世界が違うのだから。
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