キク十六歳春

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「違うよ」  突如……まるで最初から側にいたかのように現れた、大きく真っ赤なリボンを付けた少女は俺にこう言った。 「キクはサオリを救いたかったんじゃなくてね、傷ついてボロボロのサオリを手に入れたかったんだよ」  俺はサオリが好きだった。イジメられて、嫌われて、傷ついて、ボロボロのサオリが好きだった。欲しいと思ったんだ。 「本当は解ってるんでしょう? あの男がサオリをボロボロにすること。なんであんな男にサオリを紹介したの? ねえ、そんなにボロボロなサオリをみたいわけ?」  俺は返す言葉さえなかった。 「お願いだよ。今度はちゃんとヒーローになってね」  ぴんぽーん。  ぴんぽーん。  ヒーローはもういない。ヒーローは居留守を使っている。  
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