キク十六歳春

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 サオリが家に帰らなくなったのは、俺の誕生日を一か月後に控えた五月のことであった。 「品川さんのところのサオリちゃん、二週間家に帰って来てないらしくてね、昨日捜索願いが出されたみたいよ」  俺の作ったハヤシライスを、スプーンで食べながら言った母親の言葉に、ずっと懸念していた心配事が過ぎった。  家に帰らないことも、家出をすることも日常茶飯事なサオリではあるが、あの広田と一緒にいるのだ。無事なわけがない。  しかし、俺は動くのか? 広田とまた関わるのか? 目の前の、女手一つで育ててくれた母親をまた悲しませるのか? 「あんた、サオリちゃんと仲がいいでしょ。ちょっと心当たりがあったら、見つけてあげてよ」 「心当たりなんてねぇよ」  俺は自分の食べ終わった食器を片付け、母親に背を向け、乱暴に襖を閉めて部屋に閉じこもった。  そのあくる日からだ。サオリの行方を巡る、俺の探偵ごっこは始まったのは。      
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