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サオリが家に帰らなくなったのは、俺の誕生日を一か月後に控えた五月のことであった。
「品川さんのところのサオリちゃん、二週間家に帰って来てないらしくてね、昨日捜索願いが出されたみたいよ」
俺の作ったハヤシライスを、スプーンで食べながら言った母親の言葉に、ずっと懸念していた心配事が過ぎった。
家に帰らないことも、家出をすることも日常茶飯事なサオリではあるが、あの広田と一緒にいるのだ。無事なわけがない。
しかし、俺は動くのか? 広田とまた関わるのか? 目の前の、女手一つで育ててくれた母親をまた悲しませるのか?
「あんた、サオリちゃんと仲がいいでしょ。ちょっと心当たりがあったら、見つけてあげてよ」
「心当たりなんてねぇよ」
俺は自分の食べ終わった食器を片付け、母親に背を向け、乱暴に襖を閉めて部屋に閉じこもった。
そのあくる日からだ。サオリの行方を巡る、俺の探偵ごっこは始まったのは。
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