キク十歳

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 サオリのことなんて上の空で、今年度四年生になった俺は、念願の野球部に入部したのだ。  親友のコウちゃんと遊べなくなるのは寂しいが、いつまでも光りの当たらない生活は、自分自身を不安にさせる。  運動神経自体それほど悪くない俺は、次第に新しい友達ができて、先輩にだって可愛がられるようになっていく。  いつものように、練習が終わり最下級生の俺たちは、グラウンドを整地するためトンボを掛ける。  そして家に帰ると自宅前に膝を抱えてうずくまっているサオリがいた。 「ん? 品川さん? どうしたの」 「鍵忘れて家に入れない」  以前の世を呪うような強気な眼差しは何処へやら、その瞳は明らかにSOSを求めるしおらしい物だった。  鍵っ子歴の長い俺は、サオリの絶望的な気持ちがよくわかる。 「俺んちでメシ食ってけよ」  パッ-と明るくなるサオリの表情。クラスのばいきん女は、笑うと凄く可愛らしかった。
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