最終章

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   日曜の昼下がり、駅前の公園にあるベンチは、やや散りかけの小規模な藤棚が日陰になっていた。そこで俺は小説を読んで時間を潰す。昼はやや暖かく、夜は肌寒い季節なので服装に迷う。所々若葉が見え出した、だらし無くぶら下がったの花の一房から、花弁がヒラヒラと舞とまっている。  待ち人が来たのは、随分遅かった。斜陽の角度が随分鋭利になってからである。 「悪い、待たせたな」  郷田は申し訳なさそうに俺に詫びた。彼は高校に行かずに、現場仕事をしながら一人暮らしをしている。元から大きかった身体は、太陽と労働により洗練され引き締まっていた。きっと中一のころみたいに、一対一でケンカしても俺には到底勝てないだろうなって思う。今日は週に一度の休みに出向いてもらって、俺は申し訳ない気持ちになった。 「いいよ。面白いとこだったし」 「本とか読むようになったんだ」 「お前も読むか? 暇つぶしくらいにはなるぞ」  郷田は軽く首を横に振り、俺の横に腰掛けた。
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