最終章

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 自分ちの扉の前。介護をやっている母親は夜勤で現在不在である。俺は誰もいない自分ちのインターホンを鳴らす。 ぴんぽーん。 ぴんぽーん。  なあ、ヒーロー。居留守を使ってないで、出て来いよ。扉を開けると、中から奥歯をガクガク言わせながら、震えるヒーローさまが出てきた。この俺である。 「なあ、もう一回だけ、力貸せよ」  俺と対峙する俺自身は、震えながら頷き、消える。 「なあ、サオリ。母ちゃんに手紙書いておくから、落ち着くまでこの部屋にいろよ」 「……ねぇ、キクは?」  右手で傘立てに差してあった、あの日ホームランを打った金属バットを抜く。担任の頭をかち割った曰くつきのバットでもある。そして反対の左手で、サオリの頭を撫でる。 「やられたら、やりかえさなきゃな。こう見えて俺、昔、地区大会の決勝でホームラン打ったんだぜ」
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